ひと昔前までは有名人や専門家だけがセミナーを開いていましたが、今では一般人が講師・講演を依頼されることが当たり前になりました。
では、もし公務員のあなたが講師・講演を依頼された場合、謝礼金を受け取るのは可能でしょうか?

結論から言うと、講師・講演の講演料や謝礼金は原則、受け取りできるよ!
公務員が講師・講演の講演料や謝礼金を受け取っても良い法的根拠
法令を根拠に確認していきます。まずは公務員の副業を規制している法令から見ていきましょう。
(私企業からの隔離)
第百三条 職員は、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下営利企業という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。
② 前項の規定は、人事院規則の定めるところにより、所轄庁の長の申出により人事院の承認を得た場合には、これを適用しない。
③ 営利企業について、株式所有の関係その他の関係により、当該企業の経営に参加し得る地位にある職員に対し、人事院は、人事院規則の定めるところにより、株式所有の関係その他の関係について報告を徴することができる。
④ 人事院は、人事院規則の定めるところにより、前項の報告に基き、企業に対する関係の全部又は一部の存続が、その職員の職務遂行上適当でないと認めるときは、その旨を当該職員に通知することができる。
⑤ 前項の通知を受けた職員は、その通知の内容について不服があるときは、その通知を受領した日の翌日から起算して三月以内に、人事院に審査請求をすることができる。
⑥ 第九十条第三項並びに第九十一条第二項及び第三項の規定は前項の審査請求のあつた場合について、第九十二条の二の規定は第四項の通知の取消しの訴えについて、それぞれ準用する。
⑦ 第五項の審査請求をしなかつた職員及び人事院が同項の審査請求について調査した結果、通知の内容が正当であると裁決された職員は、人事院規則の定めるところにより、人事院規則の定める期間内に、その企業に対する関係の全部若しくは一部を絶つか、又はその官職を退かなければならない。
(他の事業又は事務の関与制限)
第百四条 職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。
出典:e-Gov国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000120#707)
(営利企業への従事等の制限)
第三十八条 職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下この項及び次条第一項において「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。ただし、非常勤職員(短時間勤務の職を占める職員及び第二十二条の二第一項第二号に掲げる職員を除く。)については、この限りでない。
2 人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。
出典:e-Gov地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000261#382)
要約すると、次の通り。
① 許可なく「営利企業の役員になる」のはダメ!(役員兼業の制限)
② 許可なく「自ら事業を営む」のはダメ!(自営兼業の制限)
③ 報酬を得てもいいが、兼業に当たる場合は許可が必要!(他の事業又は事務の関与制限)
※「職務専念義務」「信頼失墜行為の禁止」「守秘義務」は公務員としての大原則なので副業するときも守ること!
まず ①許可なく「営利企業の役員になる」のはダメ! ですが、講師・講演活動をしたからといって営利企業の役員になるわけでは無いので問題ありません。
次に②許可なく「自ら事業を営む」のはダメ!ですが、 よほど積極的に稼がない限りは自営兼業にもあたりません。
最後に ③報酬を得てもいいが、兼業に当たる場合は許可が必要!ですが、講演料や謝礼金を受け取ることが「報酬を得る兼業」にあたるかどうかが争点になります。
この点については、ありがたいことに人事院のガイドラインで明確に要件が定められています。
次の2つ両方を満たす場合は許可が必要です。
以下の要件のいずれも満たす場合には、許可が必要です。
出典:「義務違反防止ハンドブックー服務規律の保持のためにー」(https://www.jinji.go.jp/ichiran/ichiran_fukumu_choukai.html)
① 労働の対価としての「報酬を得る」こと
② 「定期的⼜は継続的に従事する」こと
まず、謝礼金は「報酬を得る」ことに該当する可能性が高いので①の要件は満たします。
一方で、単発であれば「定期的⼜は継続的に従事する」ことには該当しないため、②の要件は満たしておりません。
したがって、兼業許可の必要はありません。
これを裏付ける人事院の照会例が次の通りです。
【照会例 12】
出典:「義務違反防止ハンドブックー服務規律の保持のためにー」(https://www.jinji.go.jp/ichiran/ichiran_fukumu_choukai.html)、太字は当サイトによる
Q. 単発的に講演を依頼され講演料を得た場合や、研究成果等を雑誌等に単発的に発表し報酬を得た場合などは、第 104 条の兼業に該当しますか。
A. 第 104 条における「事業に従事し、若しくは事務を⾏う」場合とは、「国家公務員としての職務以外の事業⼜は事務に、継続的⼜は定期的に従事する場合」を⾔いますので、上記のような単発的に従事する場合は、第 104 条の兼業に該当しません。
なお、国家公務員倫理法・国家公務員倫理規程との関係では、当該依頼元が利害関係者であるときには、あらかじめ倫理監督官の承認が必要です。また、本省課⻑補佐級以上の職員については、講演料や原稿料等の報酬が 5,000 円を超える場合、原則として贈与等報告書を提出する必要があります。
これによると、単発的の講演料を得た場合等は、兼業・副業には該当しないと明確に回答されています。
したがって、単発かつ社会通念上妥当な報酬であれば兼業にはあたらないので許可なく可能ということです。

地方公務員も、よほどのことが無い限り同じ基準だよ!
公務員法の副業・兼業に当たるケースは許可が必要
一方、「定期的⼜は継続的に従事する」場合は副業・兼業にあたります。つまり、許可が必要です。
例えば、継続的な講演を依頼され、その都度報酬を得ている場合は兼業にあたります。したがって許可申請が必要になります。
そうなったときに気になるのが「許可基準」ですよね。
実は、許可基準は内閣官房からの通知により、以下の通り明確化されました。
参考にして作成:閣人人第225号「職員の兼業の許可について」に定める許可基準に関する事項について(通知)(https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/jinji_e.html)

地方公務員も、よほどのことが無い限り同じ基準だよ!
実際に大阪府の事例でも、反復・継続的に報酬を得る場合は許可が必要だと解されています。
3.印税の取扱いについて
出典:大阪府HP 相談室 営利企業等の従事制限について(http://www.pref.osaka.lg.jp/shichoson/jichi/2705sodan.html)、太字は当サイトによる
「(中略)また、地公法第38条の「事業若しくは事務に従事すること」とは、職員が職務以外の事業又は事務に継続的又は定期的に従事することと解されるところである。
したがって、雑誌に原稿を寄稿し、それをもととした出版を反復・継続的に行う場合は、報酬を得て事業又は事務に従事することに該当し、任命権者から許可を受ける必要がある。」(『地方公務員月報 平成7年11月号』自治省公務員課編 24頁から25頁)とされています。
- 単発かつ社会通念上妥当な報酬であれば副業にはあたらないので許可なく可能
- 「定期的⼜は継続的に従事する」場合には許可が必要で、許可基準が明確に定められている
公務員が講師・講演活動のオファーをもらう方法
さて、講師・講演活動で公務員がお金を頂くことは可能だということが分かりました。
講師・講演活動の謝礼金は一回、数万円にもなるケースが多く、それだけで生計を立てるフリーランスが数多くいます。
公務員は「自営」が制限されているので、大規模な収入を得ることは難しいですが、お小遣い稼ぎ程度にはなるかもしれません。
基本的には確定申告が必要になる年間所得20万円以内に抑えるのが無難でしょう。
それでは、どういったケースで講師・講演の依頼がくるのでしょうか?
一番メジャーなのが本業(公務)関係の依頼です。
特に医療職や保健師の方は、本業の専門知識を地域の医療機関でレクチャーして欲しいという依頼がくることがよくあります。
公務の一環としての性質もあるので、必ず上長に相談したうえで謝礼金の扱いを決める必要があります。

過去に島根県で住民から指摘された事例があるから、細心の注意が必要だね!
また最近では地域活性化が盛んなので、ICT関連や都市計画で先進的な取り組みをしている自治体職員に講演依頼がくることもあります。
そのほかには、大学時代の研究から講師・講演の依頼がくることがあります。
さらに最近では、ブログやSNSで有名になると企業や団体から出版のオファーが来ることがあります。とくに専門知識やニッチな趣味を発信していると、企業や団体から講演の依頼が来ます。
完全に本業とは関係がないため、大原則(職務専念義務・信頼失墜行為の禁止・守秘義務)を守れば引き受けてもほぼ問題ありません。
また、自ら積極的にセミナーや講師を主宰して報酬を得ることもできます。
ただしこの場合は「自営」にあたる可能性がでてきますので許可を得てから行うのが無難です。
例として、奈良県生駒市の消防署職員が小学生に向け得て有償で出張授業を行ったケースがあります。⇒【参考】生駒市人事課 地域貢献活動(副業)を行う市職員の紹介
これら事例から、定期的な講師・講演活動により報酬を得るという副業が公務員にも浸透するきっかけになりそうです。
公務員がオファーをもらってから講師・講演活動を行うまでの流れ
では実際にオファーをもらってから、どういった流れで本番を迎えるのか確認しておきましょう。公務関連の単発オファーという想定です。
完全にあなたの趣味や研究関連の場合はここまで綿密にやる必要はないでしょう。
①オファーを受ける
先方からあなたに講師・講演のオファーが来ます。
「○○というテーマで講演して頂きたいのですが、可能でしょうか?」といった具合です。
内容や場所、規模、いただくお金について、必ず書面(メール等)でもらってください。

不要なトラブルを防止するためだね!
②上長に事前相談する
オファーの内容、頂く予定のお金(謝礼金、交通費など)について説明します。場合によっては先ほどの書面の提出を求められます。
・先方と利害関係が無いこと
・大原則(職務専念義務・信頼失墜行為の禁止・守秘義務)に抵触しないこと
以上を示し、単発なので必要ないはずですが、もし兼業許可申請が必要だと言われたら行いましょう。余程の理由がない限り承認されるでしょう。
③オファー承諾の返答をする
オファーをくれた先方に承諾の旨を伝えましょう。
もし依頼文をもらう場合は、あなた個人宛の依頼文にしてください。
あくまで本業ではなく、私的活動によるものだと明確にする必要があるからです。
④オファーを実行する
役所によって判断が分かれるところですが、人事に許可申請を出す場合もあります。
といっても上長の承認は済なので書面に落とすだけです。期間に余裕をもって行って下さい。
⑤オファーを実行する
いよいよ講師・講演活動の実施です。
ここでの成果が次の仕事に繋がる可能性があるので、全力で行いましょう!
⑥報酬を受けとる
報酬を受けとります。証明書は必ずもらいましょう。
また、いただいたお金が事前に聞いていたよりも増減があった場合は、念のため事後に上長に報告しましょう。
まとめ:公務員の講師・講演活動はOK!
講師・講演活動は年に数回やるだけでも結構な金額をゲットできます。
ものによっては1回10万円を超える講演料もありますので、かなり美味しいです。
単発であれば原則、許可不要なのがありがたいですね。
その他、公務員でもできる副業は色々とありますので、こちらで紹介しています!